1290万円以上の落札実績も。価値が高まるフィン・ユール作品を解説
木の良さを存分に生かした北欧家具は、ひとに優しく寄り添う有機的なデザインが特徴的であり、機能性も併せもつ佇まいは私たちを魅了します。
北欧家具の代表的なデザイナーであるヤコブセンやウェグナー、そして北欧デザインの巨匠「フィン・ユール」は、インテリアにこだわりを持つ人々に愛される存在です。
この記事では、そんなフィン・ユールの家具を、彼の半生とともにご紹介します。
(TOP画像引用:OPENERS)
フィン・ユールとは
北欧モダニズムの代表的なデザイナーの一人、フィン・ユールはウェグナーら多くのデザイナーと同じ素材を使用していながら、非常に美しい彫刻的造形のデザインを持つ家具を手掛けていました。
「家具の彫刻家」と称されるほどの美しい造形物を生み出せた背景には、高度な技術を持つニールス・ヴォッター工房の存在が大きく、デザイナーと工房が共同で素晴らしい作品を製作し、世に送り出していました。
また、現在ではなかなか手に入らないブラジリアンローズウッドなど、良質な木材を使った作品が多いことも、フィン・ユール家具の存在価値を高めています。
フィン・ユールの半生
フィン・ユールは、1912年デンマーク・コペンハーゲンの近郊にあるフレデリクスベアに生まれ、若い頃は美術史家を志していました。
しかし、父親の反対を受けたことから、1930年にはデンマーク王立芸術アカデミーの建築科に進学。在学中は、当時最先端の建築家と言われたウィルヘルム・ラオリッツェンに師事した後、25歳の時には家具職人組合の展示会に初出品。家具職人ニールス・ヴォッターとの協力関係のもと、1940年代には代表作となる「イージーチェア No.45」や「チーフテンチェア」など、魅力的なチェアをデザインしました。
1942年には、コペンハーゲン北部のオードロップゴーに自邸を建設。自らデザインした家具や日用品に囲まれて暮らし、1945年に独立したフィン・ユールは、当時主流だったコーア・クリントの歴史ある家具デザインから一線を画し、独自のデザインを確立していきます。
インテリアデザイナーとして活躍の場を広げる
1950年頃から活動の場をアメリカへと広げたフィン・ユールは、国連本部ビル内にある信託統治理事会議場のインテリアや家具デザインなどを手掛け、世界的に名を広めます。
その後も、スカンジナヴィア航空のオフィスや旅客機内のインテリアデザイン、世界各地で開かれたデンマークデザインの展覧会における会場デザインなど、建築家・インテリアデザイナーとして活躍しました。
1989年の逝去後、2003年に開かれた「スカンジナビアファニチャーフェア」では、優れた建築家を讃える「フィン・ユール アワード」が創立されました。著名な建築家であり家具デザイナーでもあるフィン・ユールは、日本にも数多くのファンがいます。
フィン・ユールの代表作品
フィン・ユールの代表作は、「ペリカンチェア」(1940年)、「イージーチェアNo.45」(1945年)、「チーフテンチェア」(1949年)などがあります。
ペリカンチェア
彫刻作品のような造形のペリカンチェアは、曲線だけで作られ、どこから見ても美しいラインが特徴です。その名の通りペリカンを思わせるユニークな形と四方に広がる頑丈な脚を持つユニークなデザインは、驚きとともに高い評価を得ました。
独特のフォルムをもつペリカンチェアは製造難易度が高く、量産が難しいことから当時は商品化されず、製造数はごくわずかで「幻の椅子」とも呼ばれていました。
現在、フィン・ユール家具の製造と復刻生産に関する専有権を持つ「ハウス・オブ・フィンユール」により復刻されたのは2001年で、発表から実に61年後のことでした。
イージーチェア No.45
1945年に製作されたイージーチェアNo.45は、「世界で最も美しいアームを持つチェア」とも評されるほど、流れるようなフォルムに目を奪われます。
フィン・ユールがウィルヘルム・ラオリッツェン建築設計事務所から独立した後に最初にデザインしたこのチェアは、アームが特徴的です。薄く研がれたエッジは繊細で、三次元曲面による流麗なカーブは木の概念を覆すほど。
フィン・ユールの作品は、シートがフレームから浮いているように見えるデザインや、椅子の後ろ姿が美しい特徴を持ちますが、イージーチェアはそれが最初に具現化されたチェアといわれています。
チーフテンチェア
1949年にデザインされた、フィン・ユールの代表作です。自邸にある暖炉の前でくつろぐためにデザインされたラウンジチェアは、発表と同年に開催された展示会では独特なデザインを万人が受け入れたわけではありませんでした。しかし、デンマークのフレデリック国王の目にとまり、国王が座ったことでその名が広まりました。
「チーフテン」の名は英語で「酋長(しゅうちょう)」を意味し、1940年代後半に仕事で渡米したフィン・ユールがケネディ一族やカウフマンなどに会ったことで、アメリカに敬意を表し名付けたとされています。
また、チーフテンチェアは、古代エジプトで使われていたチェアの構造や特徴と共通点があることから、「エジプトチェア」とも呼ばれています。
フィン・ユールの作品を販売している店舗
現在、フィン・ユールのコレクションは40種類以上の作品販売されており、そのすべては「ハウス・オブ・フィンユール」によって、当時の伝統的な手作業を継承し高い品質を保ちつつ、現代の技術を駆使しながら製造されています。
また、フィン・ユールが手掛けたヴィンテージ作品は、サザビーズなどの海外オークションにて高値で取引されています。ここでは、いくつかの落札実績を紹介しましょう。
フィン・ユール家具のオークションにおける価値は?
北欧モダニズムを体現するフィン・ユール作品。彫刻のような高いデザイン性を持つ作品は根強い人気を誇っています。
JUDAS DINING TABLE
ローズウッドを用いたダイニングテーブルは1950年頃に設計され、デンマークのコペンハーゲンにあるニールス・ヴォッダー工房により製造。サザビーズでは、2020年10月に22万 6,800香港ドル(約310万円)で落札されました。
FJ45
1945年に設計され、チーク材を用いたチェアは「世界一美しい肘をもつ椅子」と高い評価を獲得。サザビーズでは、2019年4月に43万7,500香港ドル(約620万円)で落札されました。
チーフテンチェア
前述したフィン・ユールの代表作・チーフテンチェア。ヴィンテージのチェアは非常に高値で取り引きされた実績があり、2020年の10月にはサザビーズで94万5,000香港ドル(約1,290万円)で落札されました。
高い評価を集めるフィン・ユールの作品
「ポエトソファ」 や「ペリカンチェア」など、フィン・ユールの作品はオリジナル同様に、デンマークの伝統的な手縫いで作られており、フィン・ユールが持っていた家具作りへの思いを再現すべく、優れた職人の手により製造されています。
FJ56
FJ56は、1956 年10 月にコペンハーゲンの家具職人ギルドの展示会でデビューしたチーク材のコーヒーテーブルです。
片引出しは蟻継ぎが施され、長方形の天板は縁が盛り上がっていてチーク材の美しい木目仕上げになっています。販売価格は205万5,556円(税込、2023年3月30日現在)。
ブワナチェア
1962年にデザインされた、上質なチーク材とファブリックスでできたチェアです。“親方”や“ボス”という意味を持つ「ブワナ」にふさわしい風格があります。
座面の接合部分に黒いスペーサを入れることで浮遊したように見える工夫や、アームとクッションが一体化したデザインは肘掛けに最適で、前脚から続くグリップは愛らしさと使いやすさを兼ね備えています。販売価格は70万2,770円(税込、2023年3月30日現在)。
ウイスキーチェア
1948年に、キャビネットメーカーズギルド展にて発表されたチェアです。しかし、当時は販売まで至らず、2022年に復刻版として発売されました。
端に向かい有機的に伸びるアーム、ハンドメイドの半月型の真鍮製トレイが特徴的で、このトレイの天板にはウィスキーグラスを置けるように工夫されています。
フレームには厳選された最高品質のウォールナット材を採用。張地は革またはファブリックスを選択できます。販売価格は136万9,500円から(税込、2023年3月30日現在)。
まとめ
くしくも、日本国内ではフィン・ユールの作品も並ぶ「
北欧デザイン展」が開催中(4月20日から名古屋、8月9日から大阪にて開催予定)で、私も現地を訪れました。多くの人々で賑わうイベントを目の当たりにして、改めて北欧家具に向けられた関心の高さを感じます。数ある北欧家具の中で、ひと際「美しさ」にこだわったフィン・ユール家具の魅力は人々の心を動かし、海外オークションでも高い評価を受けている理由を垣間見ました。