イチローズモルトとは?
イチローズモルトは、埼玉県秩父市のウイスキー専業メーカー株式会社ベンチャーウイスキーが製造するジャパニーズ・ウイスキーです。
「イチロー」というと元大リーガーのイチロー選手を思い浮かべる方も多いと思いますが、イチローズモルトのネーミングは、創業者である肥土 伊知郎(あくと いちろう)氏から取られたもの。
ただこの自らの名を冠したイチローズモルトの成功への道のりは、決して平坦なものではありませんでした。
実家の造り酒屋が廃業
肥土氏の実家は江戸時代初期から続く造り酒屋でしたが、肥土氏の祖父の代からウイスキー製造に乗り出し、埼玉県羽生蒸留所でウイスキーを生産していました。
しかし2004年に経営が譲渡され、ウイスキーの生産は停止。当時400樽あったウイスキーの原酒は廃棄されることになってしまったのです。ここで祖父や父親の魂のこもった原酒を守りたいと考えた肥土氏は樽の受け入れ先を探すために奔走します。
そしてなんとか受け入れ先を確保し、この原酒をイチローズモルトとして販売することを目的として立ち上げたのがベンチャーウイスキーというわけです。
プレミアが付き、約1億円で落札されるものも
当初は無名に近いブランドでしたが、その味わいが徐々に口コミで広がり、少量生産ということもあってプレミアが付くボトルも出るようになりました。2008年には自前の秩父蒸留所が稼働を開始。新たな原酒製造が始まります。
そして2019年、イチローズモルトのシリーズ54本セットが香港のオークションに掛けられ、当時のジャパニーズ・ウイスキーの過去最高落札額「約1億円」で落札されました。
こうしてイチローズモルトは伝説となっていったのです。
イチローズモルトの魅力
イチローズモルトの歴史はサントリーやニッカといったほかのウイスキーメーカーに比べると浅く、またその規模も小さなものです。
しかしイチローズモルトにはそれらの要素をネガティブなものとせず、かえってプレミアム感に変えていく魅力があり、実際に世界のコンペティションでも高く評価されています。
味と香りへのこだわり
イチローズモルトの魅力である独特な味や香りは、「発酵」「蒸留」「熟成」といった製造過程に徹底的にこだわることによって生まれます。
・世界的にも珍しい「ミズナラ」の発酵槽を使用
モルトウイスキーの作り方は、原料となる大麦を絞った麦汁と酵母を発酵槽に入れてアルコール発酵させます。このとき一般的には手入れの簡単なステンレス製の発酵槽を使いますが、イチローズモルトでは、ジャパニーズ・オークとも呼ばれる「ミズナラ」でできた発酵槽を使用しているのです。
熟成樽にミズナラを使用することは国内外のほかのメーカーでもおこなわれていますが、発酵槽に使用されるのは極めてレアケース。ミズナラの発酵槽を使うことでまるでお香のような品のある風味豊かな香りがつき、またミズナラに含まれる乳酸菌が独特なフルーティーな味わいを生み出します。
・蒸留に使用する「ポットスチル」は特注品
次にアルコール発酵させた醪(もろみ)を蒸留してアルコール濃度を高めていくのですが、この蒸留に使用するポットスチル(蒸留器)はウイスキーの本場スコットランドの老舗メーカー、スコットランド・フォーサイス社に詳細な希望を伝えた特注品を使用しています。
・こだわりの樽材と秩父の気候が熟成を深める
ウイスキーの熟成にはシェリー酒など、ほかの酒の熟成に使用した樽を再利用することが多くおこなわれます。
イチローズモルトではシェリー酒やバーボン、ワインの古樽のほか、ミズナラの樽なども使用。こうすることで樽の種類によって風味や色合いが変わり、バリエーションに奥行きが出るからです。
また蒸留所のある秩父はミネラル豊富な名水を仕込み水に使用することができ、さらに夏と冬の寒暖差が激しい気候が熟成を深いものにしてくれます。
世界的な賞を数々受賞
このようにこだわり抜いて造られたイチローズモルトは世界でも高い評価を受けています。
2006年には世界100カ国以上で読まれているウイスキーの専門誌「ウイスキーマガジン」のジャパニーズモルト特集で、イチローズモルトのキング・オブ・ダイヤモンズが最高得点のゴールドアワードに選出。
また世界で最も権威のある組織であるWWA(ワールド・ウイスキー・アワード)では、2007年から7年連続でジャパニーズ部門の世界最優秀賞を受賞し、さらには2017年から2021年までの5年連続でシングルカスクシングルモルトウイスキー部門「世界最高賞」を受賞。つまりシングルカスク、シングルモルトウイスキーで世界一に選ばれたのです。
これらの受賞によりイチローズモルトは世界中のウイスキーマニア垂涎の的となり、その価格は飛躍的に上昇していくことになります。
イチローズモルトの買取相場
イチローズモルトの買取価格はここ5年ほど高止まりを続けており、大きくは変動していません。
中でも安定して高値となるのは、イチローズモルト・ザ・ファイナルビンテージ・オブ・羽生のように、「羽生」の名が付くボトルです。これは肥土氏の祖父が営んでいた旧羽生蒸留所で生産されていたモルトを使用したものなのですが、旧羽生蒸留所はすでに閉鎖されており(現在はほかの経営者が羽生蒸留所を再建している)、新たなモルトが生産されることはないため非常に希少価値が高くなります。
カードシリーズの価値が向上
最低でも数万円、高いものでは数十万円の買取価格が一般的です。究極は限定の少数ロッ
トしか販売されない「カードシリーズ」で、複数のカードラベルがセットで販売されることでコレクター熱に火がつき、2021年には全16本セットが2,200万円で、2019年には前述のように54本セットが約1億円で落札されています。
投資向けイチローズモルトのおすすめ銘柄5選
イチローズモルトを投資の対象として考えた場合、おすすめしたいのはやはり今後も値上がりが期待できる希少品、限定品になります。
中でも上記した「羽生」ものや「カードシリーズ」などを選んでおけば間違いは少ないはずです。
1.イチローズモルト カード ジョーカー モノクローム
「イチローズモルト カード ジョーカー モノクローム」は2014年に発売されたカードシリーズ最後のリリースとなるもので、比較的本数の多いカラーバージョンとは異なり、241本しかリリースされなかったモノクロームバージョンは特に高値で取引されています。
蒸留年度は1985年、つまり羽生蒸留所で蒸留されたものであり、そのモルト原酒をミズナラ樽で熟成後、シングルカスクのカスクストレングス、ノンチルフィルター(冷却濾過をしていない)でフィニッシュ。
その香りは希少な香木を思わせ、口に含めば黒蜜のようなまろやかな甘みが広がります。
オークションでは300万円を超える価格で取引されており、ネットショップでは1,000万円を超える値付けがされていることもあります。
定価 |
3万3千800円 |
価格相場 |
300万円〜1,000万円 |
2.イチローズモルト カード エース・オブ・クラブス
「イチローズモルト カード エース・オブ・クラブス」はカードシリーズの1つとして2012年に発売されました。
カードシリーズはそのボトルラベルがトランプの枚数だけバリエーションがあるという希少性に加え、ラベルの種類ごとに異なる樽熟成のモルトを使用するという差別化がなされています。
このエース・オブ・クラブスは甘めのバニラ香を放ち、カラメルを思わせる香ばしさを表現。ネットショップでは300万円で取引されていることもあります。
3.イチローズモルト秩父×羽生 ダブルディスティラリーズ ゴーストシリーズ 新形三十六怪撰
「イチローズモルト秩父×羽生 ダブルディスティラリーズ ゴーストシリーズ 新形三十六怪撰」は羽生蒸留所のモルトと秩父蒸留所のモルトをブレンドし、さらに秩父蒸留所のピーテッド原酒を加えた贅沢な1本です。
月岡芳年の版画『新形三十六怪撰』を使ったゴーストシリーズの1作としてリリースされたのですが、その本数はわずか129本であり、極めてレアな1本となっています。
4.イチローズモルト カード キング・オブ・ダイヤモンズ
「イチローズモルト カード キング・オブ・ダイヤモンズ」は羽生蒸留所の原酒を用いた「羽生」ものという希少性に加え、2006年にわずか555本のみ限定発売されたレア物シングルモルトウイスキーです。
モルトをホグスヘッド樽で熟成した後、さらにシェリー樽で後熟仕上げをおこなうことで軽いピート(泥炭)香とベリー系の甘酸っぱさを感じる味わいとなっています。
5.イチローズモルト the GAMEシリーズ
「イチローズモルト the GAMEシリーズ」はイチローズモルトと大手酒販店・スーパーの信濃屋のジョイント企画として発売されたシリーズです。シリーズは全8本で構成されており、6thボトルまでは羽生蒸留所の原酒、7thボトル以降は秩父蒸留所の原酒を用いています。
1本でも50万円程度で取引されていますが、全8本のコンプリートセットは1,000万円を超える値付けがされることもあります。
定価 |
- |
価格相場 |
1,000万円(フルセット時) |
プレミア価格がつきやすいウイスキーの特徴
プレミア価格がつきやすいウイスキーには大きく分けると以下のような4つの特徴があります。
コレクションの対象となる「シリーズ物」
イチローズモルトでいうところのカードシリーズやゲームシリーズのような「シリーズ物」は「シリーズ全てをコンプリートしたい!」という欲求が発生し、コレクターの心を強く惹きつけるため価格が高騰しやすくなります。
特にシリーズ全てを揃えた「セット物」は1本ずつの価格を足した額にプレミア価格がプラスされ、非常に高価格となることが一般的です。
終売となった「絶版物」
終売となったウイスキーは飲まれるなどして本数が減ることはあっても、増えることはありません。
そのためこうした「絶版物」は、欲しいと思う人がいるかぎりプレミア価格がつき高騰しやすくなります。
○○本限定などの「限定物」
○○本限定などの「限定物」も絶版物と同じ理由でプレミア価格がつきやすくなります。そして限定物のウイスキーの場合はさらに、長期熟成の原酒などを使用しているケースも多くみられ、より一層レア度がアップすることも珍しくありません。
供給が間に合わない「品薄物」
イチローズモルトのように生産者が小規模の場合、需要に対する生産量が少なく、供給が間に合わないケースが発生する場合があります。
このようなケースでは一時的に絶版物と同じ状況になるためプレミア価格がつきやすくなるのですが、時間が経って供給が安定すると価格は下がってしまうため注意が必要です。
イチローズモルトの買取はお酒専門業者に依頼しよう
イチローズモルトのような高額になるウイスキーの買取は、お酒専門の買取業者、しかもウイスキーに強い業者に依頼するのがおすすめです。
売却するだけならヤフオクやメルカリなどのオークションでさばく方法もありますが、金額がブレる心配がありますし、梱包、発送の過程でラベルに傷が付いたりボトルが割れてしまったりしてトラブルとなる可能性もあります。
またウイスキーに強い業者であればロット番号による価格差などにもきちんと対応してもらえるため、ウイスキーを投資対象と考えている場合には特に安心です。
投資向けにイチローズモルトを購入した後の注意点
イチローズモルトに限りませんが、投資対象としてウイスキーを購入した場合、後々高額で売却できるように注意しておくポイントがあります。
保管状況に注意する
まず未開封であることは絶対条件です。開封してしまった場合は基本的に買取してもらえません。開封してあるかどうかはウイスキーのキャップにかぶさっているフィルムで判断されますが、フィルムが破れていなくても黄ばんでしまっている場合は液漏れや中身の蒸発が考えられるため、価格が著しく下がることを覚悟しておきましょう。
ラベルやキャップなどに傷をつけることももちろんNGです。またウイスキーにとって、高温多湿、振動は良くありません。直射日光を避け、涼しくて安定した場所に保管してください。
付属品をなくさない
高級なウイスキーの場合、化粧箱に入っていたり、オリジナルグラスやチェンジキャップ(替えの蓋)が付属してくる場合があります。
このような場合、箱や付属品が欠品していると査定額が下がってしまいます。
できる限りオリジナルの状態を保つようにしましょう。
まとめ
無名に近かった秩父の小さな蒸留所で造られたウイスキーが、そのこだわりの製法から生まれる独特な香りと味わいを武器に、シングルカスクシングルモルトウイスキー世界一への道を駆け上りました。
いまや1本数百万円で取引されることもあるイチローズモルトは、ジャパニーズ・ドリームを具現化しているといえるかもしれません。
投資を通してまだ歴史の浅いイチローズモルトを応援し、共に夢を掴んでみてはいかがでしょうか。