徹底的に「情報」を精査したうえで「自分の好きなモノだけ」をコレクションする【起業家:KAIさん】

    2023.08.08

    自らを「ART LOVER」と名乗るKAIさんのコレクションは、立体・絵画・シルクスクリーンなどのアートにとどまらず、スニーカー・Tシャツといったファッションアイテムから漫画まで…と、多岐にわたります。今回は「気がついたら部屋の中が “好き” で溢れ返っていた」というヘビーコレクターのKAIさんから、 “今” に至るまでの経緯(いきさつ)や、その審美眼に対するポリシー──加えて、モノの価値と真贋の見極め方についてもこっそり教えてもらいました。

    ファッションにハマったきっかけは「サッカー」だった

    ストリート業界で名を轟かせるコレクターの一人であるKAIさんが、ファッションへとのめり込むようになったルーツは…じつに小学4年生にまで遡ります。
    1991年に日本で初めて放送を開始した『WOWOW』に、実家ではいち早く加入していたのですが、そこでセリアA──世界最高峰のサッカーをいきなり観てしまい、(まだJリーグも発足していなかった時期から)サッカーの虜(とりこ)になりました。そのとき『ACミラン』のオランダ代表・ルート・フリット選手が着ていたブラックデニムジャケットがとてもかっこよかったので、当時ファッション業界に身を置いていた姉に聞いたら、「あれはたぶんリーバイスだよ」と教えてくれて……。「リーバイスってなんだ!?」って素朴な疑問が頭をよぎったのをきっかけに、どっぷり “ファッションオタク ” の世界に浸かっていったのです。
    ──家庭環境的にも、ファッションにハマる素地には恵まれていた……と?
    ですね(笑)。兄もファッション好きだったので、実家には『Hot-Dog PRESS』や『MEN‘S NON-NO』……なんらかの雑誌が置いてあった。その後、『Checkmate』『FINEBOYS』『POPEYE』『Boon』『COOL TRANS』『BRUTUS』……と、自分でもいろんな雑誌を買うようになりました。世代的に当時はまだネットはなかったので、ひたすらファッション雑誌やカルチャー雑誌を読みまくり、頭に叩き込んでいたわけです。

    12歳くらいからは一人で電車に乗って三宮や大阪で古着屋を開拓したりして、あらゆるアイテムを満遍なく買い漁っていました。従来だとモードならモード、古着なら古着……と、ジャンルが固定されがちなのですが、僕はモード・ストリート・古着・ハイブランドをランダムにミックスしていた。
    ──まだ10代や20代前半だと、資金繰りも大変だったのでは?
    10代のころはハイブランド中心に、けっこう無理して背伸びして……どうやって買っていたのかは覚えていないんですけど、おそらくパチンコやスロットで稼いでいたんじゃないかな(笑)。

    「ストリートマインド」を感じるモノが好き

    地元・関西の高校を卒業後、某大手シルバーアクセサリーブランドの大阪本社に勤めていたKAIさんは、2006年初頭にひょんな “偶然” から上京を決意します。
    2005年にサッカークラブの世界選手権トヨタカップの決勝が東京のスタジアムで開催され、リバプールがどうしても観たかった。あと、某ストリート系ブランドの人気アイテムが売り出されたばかりで、僕はそのブランドの洋服を一着も持っていなかったので、「そこに勤めてみたいな…」と、ノリで履歴書を書いてみたら、(書類選考で)受かっちゃって(笑)。「すぐ面接に来てください」ってことになり、「じゃあ、サッカー観に行くついでに受けたろかな」と、上京しました。自慢するわけではないのですが、僕はしゃべりも上手いし、営業力も抜群なので、面接であれよこれよと話が進み、即採用──そのまま東京に居座ることになったのです。
    ──すでに、東京にはそれなりのツテやコネがあったのでしょうか?
    いや、ほぼありませんでした。それどころか一人暮らしをしたこともなかったし、包丁すら握ったこともなかった。土地勘もなく、どこに住めばいいのかもわからなかったので、しばらくはホテルに住んでいました。
    ──東京に出てきて、最初に感じたことは?
    「情報量の多さ」──これに尽きます。よく「大阪も大都市なんだから大して違わないでしょ」なんて言われますが、ストリートカルチャーひとつ取っても東京と比べたら冷然たる差がありました。やはり、東京じゃないと(情報が)降りてこない。大阪ですらそうなので、地方はもっと降りてこない。その “事実” に愕然とし、上京したてのころは、昼に仕事をして夜は自分の足でクラブとかに遊びに行って情報網や人脈を広げ、そのまま寝ずにまた仕事に向かう……という毎日でした。
    その後、イベント系広告代理店の運営企画・TV番組やイベントのディレクター業務全般・アジア外資のIT企業で営業やマーケティング、コンサル業務……ほか、さまざまな職歴を経ながら、業務後はレアなスニーカーやTシャツなどに、大量に仕入れたスワロフスキーでオールハンドメイドの “作品” もつくっていたというKAIさん。東京で日夜レアな情報に触れるなか、元来持ち合わせていたコレクタースピリッツに火がつき、アイテムのジャンルに囚われることなくコレクションの量と幅を凄まじいスピードで広げていきます。
    (コレクションの総数・総額は)コレクション資産管理アプリ『COLLET』にも登録はしているのですが、もはやどういう状態なのか、正確には把握できないのが正直なところです(苦笑)。スニーカだけでも300足は軽く超えています。アートも含めたら、総額だとたぶん(購入価格で)2000万円近くになっているのではないでしょうか?

    KAIさんのCOLLET マイページ。レアモデルのスニーカーを中心に、アート、時計、アパレルまで多様なコレクションを形成。

    ──アートはどういったジャンルを好んでコレクションしている?
    「Toy」も単なる「フィギュア」ではなく「アート」と解釈するなら、『MEDICOM TOY』のものを中心に、けっこうな数を所有しています。絵画作品もシルクスクリーンを中心に10枚近く持っています。

    東京発ファッションブランド『SOPH.(ソフ)』の(代表だった)清永(浩文)さんが、90年代後半ごろから柳宗理や宮島達男、ジュリアンオピー、BANKSY……などに早くから着目しており、コラボも積極的にしていたので、「アートを買う」というよりは、そのコラボアイテムを好んで着ていたりしていました。「アート」は「ストリートマインド」を感じることができるものが好みですね。

    「これ以上の保管は物理的に無理だからしかたなく売る」といった感覚

    ことファッションコレクションにかぎっては、ひとつ「譲れないポリシーがある」とKAIさんは言います。
    僕は物持ちがいいんですよ。なので、きちんと着続けながら、売れるレベルの状態で保管もできています。

    アートは「飾るだけ」ですが、洋服やスニーカーは「着てなんぼ・履いてなんぼ」──今の若い子たちはヴィンテージのスニーカーやスカジャンとかを飾っているだけというケースも少なくはありませんが、僕はヴィンテージだろうがレアだろうが、なんだろうが「必ず着る派」です。

    「CONVERSE US Originotor ミリタリーパッチワーク」。リアルなUS古着のパッチワーク生地を採用しており流通数は100足も満たないと想定。街中はもちろんInstagram、ネットオークションにもほぼ出てこないレアアイテム。

    右上から時計回りに「STUSSY x OriginalFake」、「Barry Mcgee サングラス」、「Oakley x OriginalFake」、「Oakley x OriginalFake」、「STUSSY OriginalFake」

    ──「使い」ながら品質をキープするのは、メンテナンスも大変ですよね?
    コレクションの数が半端じゃないので、そもそも(1アイテムの) “出番” がなかなか回ってこない(笑)。だから、着用後のちょっとしたメンテナンスだけで大丈夫です。同じアイテムを二つ買ったりもします。すでに一つ持っていて、気に入っているので新品が出たらまた買うといった感じで……。

    とにかく、自分が「うわ! 欲しいな」と思ったらバンバン買っちゃうタイプですから。しかも、届いたころには飽きちゃったりもしていて……(笑)。たとえば、エアジョーダンの1を持っているのに、5と6の赤もそれぞれ買っちゃって……挙句には友だちとかに定価で売ってしまう。

    KAWSの直筆サインも入った「LEVIS x Originalfake 507」。

    ──「転売で一稼ぎする」という考えはないのですか?
    そりゃあ、儲かれば儲かるに越したことはない。けれど、「物理的にこれ以上保管は無理だからしかたなく売る」といった感覚のほうが強いかも……。いわば「ところてん」的方式です。
    ──コレクションを「投資対象」と捉える発想について?
    「え〜〜っ!?」とは思っていません。それがあるからこそ、ギャラリーもアーティストもすべての人たち(の経済)が循環していくわけですから。ただ、僕個人としては「買って値段が下がろうが、自分が満足していたらそれでいいんじゃないの?」という発想のもと、シンプルに「自分が好きなモノを買っているだけ」です。

    たしかに、価値が上がれば嬉しくはありますが、その「嬉しさ」は「自分の目に狂いはなかった」という証明──一種の自己満足的な優越感でしかありません。ちなみに、僕がこれまで早い段階で(定価で)購入してきたあらゆるアイテムは、そのほとんどが間違いなく、今だと高価格になっています。
    ──KAIさんがおっしゃる「自分が好きなモノだけを買う」という行為は、一見誰にもできそうで、なかなか簡単にできることではありません。KAIさんの「自分が好きなモノとは?」について、もう少々詳細をお聞かせください。
    う〜〜〜ん、言葉にするのはすごくむずかしいですね(笑)。まずは、つき並みですが「オリジナリティ」と「ストーリー性」があるかどうか。あと、「他人とかぶりにくいアイテム」……かな。

    今の時代は、ずいぶんとモノの買い方も変わってきています。僕たちの若いころって、給料の全額をはたいてでも洋服に注ぎ込んでいたりしたじゃないですか。ある意味、バランスはとても歪だった(笑)。僕なんか給料以上のお金をファッションにかけていましたし……。でも、とくに最近の若い世代は「買った物がリセールできるかどうか」が判断基準になっている。「3万円で買った物が2万円で売れたらいいや。1万円マイナスだけど、1万円分は着られたからそれでいいや」みたいな。それか、超チープなファストファッションを1シーズンだけ気潰して済ませるか──この二択です。そうした買い方のほうが賢いと言えば賢いんだけれど、僕はやはり「オンリーワン」にこだわりたい。

    オンラインでの購入であれば、「これ、そう頻繁にネット上には出てこないだろ」というアイテムを購入します。着眼的には「ヴィンテージ」に近いのかもしれません。

    一つの語学を習得すれば、得られる情報は10倍になる!

    現在、KAIさんは自身のキャリアと経験、知識や人脈を活かし、『GIZA MAFIA』というオンラインサロンを運営しています。一体どのような教えを乞うことができるのか? ついつい興味を掻き立てられてしまいます。
    周囲の知人やSNSのフォロワーさんとかから「なにを買ったらいいかがわからない」という質問をやたらされるんです。より露骨な質問だと「これって値上がりするの?」だとか……。一言で説明すれば、そんな人たちに「たぶん、値上がりはするだろうけど、好きじゃないんだったら買わないほうがいいよ」みたいなアドバイスをするようなサロンです(笑)。
    ──「なにを買っていいかわからない人」たちは、結局なにをどうしたいのでしょう?
    「転売したうえでの旨み」が目的なんでしょうね(笑)。「流行ってはいるけど、どこで買ったらいいかがわからない」というケースも多い。ネットオークションに登録して買えばいいだけの話なのですが、それさえも「わからない」……「しない」人は世の中に案外たくさんいます。はじめのうちは個人的に親しい友人だけにアドバイスをしていたのですが、「この情報、売れるよ」と言われ、サロンを開設しました。

    昨今、スニーカーなどのリークサイトは数多く目にしますが、『GIZA MAFIA』ではまだ日本だとあまり公開されていない生の情報を小出しにしています。アートに関しても、アート関係者ではなく、あくまで一般人の目線で、その真贋やオークションでの狙い目などをレクチャーしています。
    ──その「レクチャー」の一部を、可能な範囲でかまわないので『COLLET MAGAZINE』読者にもお願いします。
    心底から「自分が好きなモノ」を手に入れたら、それが高くなろうが安くなろうが後悔はないはず。アートだと「部屋に飾るだけ」で十分な満足感を得ることだってできるわけだし……。ですから、自分の直感はある程度信じていいのではないでしょうか。たとえば「食べログ」での評価がいくら高くても、人の味覚はそれぞれ。自分が美味しいと感じたなら、仮に点数が3.0以下でも全然かまわないじゃないですか。

    とは言え、情報を集めることは重要です。集めたうえで、その情報をいったん取り払い、最後は直感に委ねる……一見、矛盾しているのかもしれませんが、それが一番安全な買い方だと僕は信じています。

    STUSSY x OriginalFakeのスイムウェア。このようなデッドストックの状態は恐らく世界中探してももう出てこないはず。ちなみにKAIさんは2着所有。

    KAWSの直筆サイン入りNEWERA x OriginalFakeのキャップ。こちらも2個所有している。

    ──「情報収集力」を習得するには、どうすれば……?
    「正しい情報集めと取り扱い」は一朝一夕で身に付くものではありません。どうしても「安全な買い方」をしたいなら、「購入前に鑑定をプロにお願いしてお金を払う」のがベストでしょう。

    一昔前だと、公開価格だけでもそこそこには真贋を判別できたのですが、近ごろは売り手側も絶妙な価格帯で贋作を(ネットオークションなどに)出してきますから。たとえば、著名な作家の、とあるシルクスクリーンがプライマリーだと30万〜50万円あたりで販売されてて、それにプレミアがつくと80万円くらいになるんですけど、それを60万円ぐらいで出しちゃう。これをやられたら素人じゃあダマされてしまいます。
    ──それを “プロ” はどこで見抜くのですか?
    そこは企業秘密です(笑)。特別に一つだけ目安を言いますと、立体だと、まず「色」が違う。さらに細やかな表情も……。僕だったら、ネットに掲載されている写真だけでも(真贋を)ジャッジできます。「写真は本物だけど中身は偽物」という悪質なケースもありますが、それでもその出品者の履歴を追っていくことでかなり正確なジャッジができます。

    「情報を収集すること」は一定のスキルがあって手間暇さえかければできなくもありません。要は「集めた膨大な情報をどう使うか」が大切なのです。
    ──「情報をベースとして直感に委ねる」という “原則” はいつの時代でも変わらない?
    今日(こんにち)のインターネット社会は、20世紀とは比べものにならないほどの情報が溢れています。真贋に関するアプローチはSNSからNFT……Chat GPTなども含め、日進月歩の状態で激変しています。それらに我々大人世代は置いていかれるのではなく、全力でついていかなければならない。でも、どんなに優れた情報収集術を身につけても「審美眼」がそこについてこないと話になりません。むしろ「溢れすぎた情報」に踊らされて “偽物” を掴まされてしまうのがオチでしょう。
    ──もし可能ならば、KAIさんのその卓越した「情報に対するスキル」の秘密をお聞かせください。
    (笑)いくつかありますが、とりあえず「情報収集力アップ」にもっともダイレクトにつながるのは「語学力」です。僕は日本語と韓国語ができます。英語も日常会話レベルであれば話せます。そして、(母国語以外)に一つの言語ができるようになると、得られる情報量は2倍じゃなく10倍に増えるんです。二つ三つできるようになると100倍になってくる……。それが僕の最大の強みだと思っています。
    【プロフィール】
    KAIさん


    1980年生まれ。高校卒業後、関西の某大手シルバーアクセブランドに勤務し退社後、2005年に上京。イベント系広告代理店の運営、企画、TV番組などのディレクター業務全般に携わる。スニーカー・Tシャツ…他、レアなファッションアイテムからアートに至るまで、コレクターとしての分野は多岐にわたる。さらには、スワロフスキーでカスタマイズした自身のスニーカーを『Sneaker Pimps』という世界最大級のカスタムコンテストに出展した実績も。現在は、コレクションの真贋を見極める術を伝える自身のオンラインサロン『GIZA MAFIA』開設中。日本語・韓国語・英語…と語学堪能。中華圏のコレクター仲間との幅広いネットワークも持つ。

    インスタグラム: https://www.instagram.com/kaimar/
    COLLET Myページ:https://collet.am/collectors/846d88b4-89ed-45e5-aa7d-0c96b3b044bc/items
    オンラインサロン「GIZA MAFIA」: https://lounge.dmm.com/detail/5361/
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