KYNE|作品の特徴や代表作・コラボ作品などを解説

    2023.04.19

    こちらをじっと見つめる、物憂げな表情の女性たち。KYNEの作品がまとう空気感は、どこか懐かしいのに新しく、特に20~30代のアートファンを惹きつけてやみません。この記事では現代アーティスト・KYNE(キネ)。これまでの活動とその魅力を紐解いてみましょう。

    KYNEの魅力と経歴

    KYNE(キネ)は1988年生まれ。福岡県出身・在住で、2006年頃から本格的にアーティスト活動を開始しました。

    高校時代から専門的に美術を学ぶ中で、人物画を描くことが好きだと気づき、スプレー塗料で写実的な人物画を描くなどのグラフィティも手掛けるようになります。大学では、それまでふれてこなかったという日本画を専攻。卒業後は、岩絵具を用いる日本画から、アクリルを用いた絵画へと移行していきます。

    また、並行して続けていたグラフィティで「もっと自身の作風を出せたら」と試行錯誤するうち、日本画の技法や表現にも通ずるような、平面的でモノクロの線画を活かしたポートレート“KYNE-girl”が生まれます。その転写ステッカーを福岡のストリートに貼るうち、徐々に作品・作風が知られる存在となっていきました。

    KYNEの作品の特徴

    KYNEが描く女性たちは、ひと目で彼が手がけたとわかるのが特徴です。そして、一度見るとなかなか忘れられない独特な魅力を放っています。彼女たちの表情は、見る人一人ひとりが想像を巡らせられるよう、あえて感情をこめずに描かれていると言われますが、その佇まいは唯一無二と言っていいでしょう。

    KYNEは、多くのインタビューで1980年代のアイドルや音楽、カルチャーなどの大衆文化、1990年代のグラフィティ、ヒップホップなどのストリートカルチャーに影響を受けてきたと語っていて、まさにさまざまな要素が独自にミックスされ、作品に時代の空気感やノスタルジックな雰囲気を与えているのかもしれません。

    KYNEの代表的な作品

    シンプルでミニマムな線で描かれた作品の数々が、瞬く間に人気となりました。ここからは2018年から2021年にかけて発表された、KYNEの代表的な作品群を紹介します。

    Untitled(2018/coffee)

    左手にマグカップを持ち、少し首をかしげてこちらを見つめる “KYNE-girl”。この作品は、マガジンハウスが発行する月刊誌『Casa BRUTUS(カーサ ブルータス)』2018年4月号の表紙を飾りました。特集のテーマ「カフェとロースター」に合わせて書き下ろされたものです。その後、サイン入り・100枚限定のシルクスクリーン作品として制作・販売されました。サイズは縦47.5cm×横59.5cm。

    『Casa BRUTUS』では、2020年のムック『カフェとロースター』と、2022年4月発売の『新・カフェとロースター』の表紙にも、KYNEが描き下ろした作品が掲載されています。

    Untitled(2019)

    2019年3月、東京国際フォーラムで行われたアートフェア東京のGallery TARGETブースで、ゲリラ的に販売された「Untitled(2019)」。シルクスクリーン作品で、サイン入り・限定50枚が即完売し、非常に話題となりました。縦90cm✕横69.2cmと、KYNEのシルクスクリーン作品の中で最も大判で、まっすぐにこちらへ視線を向ける女性の存在感が際立ちます。ブルーとネイビー、そしてホワイトのカラーリングも魅力的で、現在でも高い人気を誇っています。

    Untitled(2020/KYNE TOKYO 2)

    東京・渋谷の宮下公園が新たに「RAYARD MIYASHITA PARK(レイヤード ミヤシタ パーク)」としてオープンした2020年、併設されたギャラリー「SAI(サイ)」のオープニングを飾る個展「KYNE TOKYO 2」で発表されました。 “KYNE-girl”の背景には、新しく完成した「RAYARD MIYASHITA PARK」と渋谷の風景が描かれていますが、背景を描いた作品はこれが初めてです。シルクスクリーン作品で、サイズは縦48cm×横60cm。サイン入り・限定100枚が抽選販売されました。

    この個展は全て新作で構成され、作家自身の原点ともいえる、ステッカーをモチーフとした初めての立体作品も披露されました。

    Untitled N(2021)

    現代美術家・村上隆が主宰する「Kaikai Kiki Galler(カイカイキキギャラリー)」で、2021年6月に発表されたシリーズの1つ。縦68.9cm×横57.5cmのシルクスクリーン作品で、サイン入り・限定50枚が、カイカイキキのWEBショップ「Tonari no Zingaro WEB SHOP」で販売されました。

    2人の“KYNE-girl”が1つの作品の中に描かれたのは、このシリーズが初めてです。これまでにない構図が生まれた背景には、村上隆との邂逅、そして約2年半にわたった共同プロジェクトが作用したと言えるでしょう。

    KYNEのコラボ作品

    ストリートカルチャーの雰囲気と、クールでスタイリッシュ、かつアイコニックなKYNEの作品は、アパレルブランドをはじめとする、さまざまなコラボレーションが常に話題となりました。

    SOPH.

    引用元: Amazon.co.jp

    「RAYARD MIYASHITA PARK(レイヤード ミヤシタ パーク)」内にオープンしたSOPH. MIYASHITA PARK(ソフ ミヤシタパーク)と、同施設内で開催中だったKYNEの個展「KYNE TOKYO 2」を記念して実現したコラボレーション。Tシャツ「KYNE TOKYO 2 TEE」、「KYNE TOKYO 2 L/S TEE」、そしてパーカー「KYNE TOKYO 2 HOODIE」の3アイテムが2020年7月に発売されました。現在ではいずれも入手困難となっており、ユーズド市場でも高値で取り引きされることが多いです。

    アディダス

    2021年6月に発売されたのが、アディダス オリジナルズとの初めてのコラボレーションシリーズ「adidas Originals by KYNE」。一般発売を前に、同ブランドのアプリで先行抽選販売が行われるなど、大きな話題を集めたのも記憶に新しいです。ブランドを代表するモデル「STAN SMITH(スタンスミス)」をベースに製作されたスニーカー「STAN SMITH KYNE」は、シュータンのデザインとカラーが左右で異なり、描き下ろしの “KYNE-girl”が、真っ白なスニーカーにパステルブルーでプリントされています。グラフィックが胸元に配されたTシャツも、コラボレーションならではの貴重なデザインとなりました。

    シンガーソングライター iri

    特定の誰かを描くことが少ないKYNEが、アーティスト本人をモデルに描き下ろしたのが、シンガーソングライターiri。彼女が2017年にリリースしたEP『life ep』では、ジャケットとiriのイメージイラストを担当しました。実は2015年にiriがライブ会場で販売していたシングル『会いたいわ / ナイトグルーヴ』のジャケットイラストもKYNEが担当しており、2021年10月には、iriのデビュー5周年を記念したアルバム『2016-2020』で、再びジャケットイラストを描き下しています。

    KYNEの作品を購入する方法

    この先、ますます人気が高まっていくことが確実なKYNE。ぜひ早いうちに、その作品を購入しておきたいところですが、一体どこで手に入るのでしょうか。プライマリーマーケットとセカンダリーマーケット、2つの市場に分けてご紹介していきます。

    プライマリーマーケット

    そもそもプライマリーマーケットとは、作家の元で新たに制作された作品が、初めて世に出て販売される市場のことです。作家が作品の展示・販売を依頼している画廊やギャラリー、百貨店のほか、アートフェア東京のような大規模なアートイベントでも購入できます。また昨今はオフラインだけでなく、オンラインで購入できることも増えました。基本的には先着順ですが、KYNEのような人気作家の場合、事前申込制・抽選となることも多いです。ちなみに販売価格は、作家と画廊などとが予め相談の上で設定されています。

    「ON AIR」

    「ON AIR」は、共に福岡を拠点に活動しているKYNEと、イラストレーターのNONCHELEEE(ノンチェリー)によるアトリエ兼ショップです。2017年に福岡市内にオープン。ユーモラスで個性的なイラストを描くNONCHELEEEとKYNEの作品や、ショップオリジナルのTシャツやキャップ、マグカップ、キャップなどのアイテムが購入できます。

    なお、ショップの名前は、二人のインターネットラジオ番組『RADIO COCONUT(レディオ ココナッツ)』の収録スタジオも兼ねて構想されたことに由来しています。

    「GALLERY TARGET」

    「GALLERY TARGET」は、2007年に原宿にオープンしたギャラリー。花井祐介、LY、ロッカクアヤコ、高木耕一郎、ピーター・サザーランド、スティーブン・パワーズといった、国内外の現代美術作家の作品を中心に展示・販売するほか、企画展の開催やギャラリー外での展覧会企画なども行っています。KYNEは2017年にここと福岡の2箇所で、個展「KYNE TOKYO / KYNE FUKUOKA」を開催。現在も作品販売や作家活動のマネジメントなどは、このギャラリーを介して行っています。

    セカンダリーマーケット

    セカンダリーマーケットとは、所有者から新たな所有者へと再販売される、いわゆる二次市場のことを指します。サザビーズやクリスティーズ、SBIアートオークションやシンワオークション、毎日オークションなど、国内外のオークションハウスのイメージが強いかもしれませんが、ギャラリーや画廊、百貨店などでも購入できます。また、昨今はCtoCのインターネットオークションやフリマアプリの登場により、アートに限らず、セカンダリーマーケット全体がより身近になりました。なお、販売価格は市場の需要と供給に左右されるため、出回る機会が少ない希少な作家・作品ほど、価格が高騰する場合が多いです。

    "先行投資"としてKYNEの作品を購入する楽しみ

    アート作品を購入・所有する魅力や楽しみ方は多彩ですが、特に現代作家の場合、その活躍や成長と共に作品が人気となり、結果、市場価格の上昇として評価されるのは、オーナーならではの喜びと言えます。そんな視点で、セカンダリーマーケットでのこれまでのKYNE作品の価格動向を分析していきます。

    多くの作品が値上がりしている

    過去に開催されたSBIアートオークションで、落札結果が公開されているKYNEの作品を2点ご紹介します。

    まず、2019年10月開催時に出品された≪1-2. Untitled≫は2017年発表のシルクスクリーン作品2点。2017年というと、「GALLERY TARGET」での個展「KYNE TOKYO / KYNE FUKUOKA」を開催した頃で、KYNEの活動では「最初期にあたる作品」とも言えます。落札予想価格は30~50万円でしたが、結果111万5,500円で落札されました。

    そのわずか1年半後、2021年4月開催時に出品された作品「Untitled」は、2020年に「GALLERY TARGET」で発表・販売されたものです。キャンバスにシルクスクリーン、サイズは縦×横30cm四方のコンパクトなものでしたが、落札予想価格は50~80万円、落札価格は195万5,000円と大幅にアップしました。

    今なら“初期投資”を抑えて手にできる作品

    現在、世界的に評価され、作品が非常に高額で売買されている作家たち、例えば草間彌生や奈良美智なども、若手作家として活動し始めた無名の頃は、作品も数万から数十万円でした。現在のKYNEは、まさに若手作家だった頃の草間や奈良と同じか、それ以上と言っても過言はないでしょう。

    すでに若い世代を中心にコアな人気があり、SNSを通じて世界中にファンやコレクターがいる。セカンダリーマーケットでの急騰を鑑みれば、さらなる人気、活躍と、作品の評価が十分に見込まれます。つまり、長い目で見れば、現在のプライマリーマーケットでの価格は初期投資をおさえ購入できて、とてもリーズナブルだ、と言えるのです。ただ唯一の難点は、シルクスクリーンでいずれも50または100のエディション管理がなされてはいるものの、常に購入希望者が殺到し、非常に入手困難なことです。

    まとめ

    グラフィティと日本画、ヒップホップ・ミュージックと80~90年代のさまざまカルチャーを絶妙にミックスして描くKYNE。その作品はますます人気を集め、市場で評価されていくことが見込まれます。ストリートの雰囲気と、モノクロの線画、クールでスタイリッシュな“KYNE-girl”の表情にはこれからも注目が集まるでしょう。
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