アートオークションに出品するまでの流れ|基礎的なポイントを解説
アート投資が盛り上がりを見せている今。2022年には、世界のアートオークション売上高がコロナ禍前の水準となる約9兆75億円(678億ドル)に達しました。
世界を代表するオークションハウス『サザビーズ』による2022年版オークション分析レポートによると、2022年のサザビーズにおける入札者のうち16%はミレニアル世代(1980年代前半~1990年代中頃に生まれた世代)で2018年の7%から倍以上に増えており、若い世代もアートオークションに注目していると言えそうです。
オークションに参加するハードルが下がれば、入札だけではなく出品者としてオークションへの参加機会が訪れるでしょう。そこで、今記事ではアートをオークションに出品する方法についてご紹介します。
(TOP画像引用:Sotheby’s)
アートの市場は主に2つ
アート市場は大きく「プライマリー市場」と「セカンダリー市場」の2種類に大別できます。まずは、アートの売買に関わる基礎知識を学んでいきましょう。
プライマリー市場
プライマリー市場は「アート作品が初めて売買される場」です。まだ評価されたことがない作品の値打ちを最初に決める場のため、確かな審美眼が求められます。
主にギャラリー・画廊などで開かれる個展や、展示即売会やアートイベントをはじめとした百貨店での催事で取引される機会が多いです。
セカンダリー市場
セカンダリー市場は「一度プライマリー市場を経た作品が再出品される場」です。持ち主の手を離れて取引される場としては、オークションハウスが多いです。
高評価を受けているアーティストや注目度急上昇中のアーティスト作品が取引されることが多く、投資目的での売買も盛んです。
アートオークションとは?
アートオークションには、絵画・陶芸・彫刻など様々な美術品が出品されています。現代美術を特集したり、若い世代のアーティストをフューチャーしたりと、オークションによってその内容はさまざま。
オークションを運営する「オークションハウス」は、出品された品物の収集や会場の運営などを担います。1700年代からオークションを手掛けてきた「サザビーズ」や「クリスティーズ」は、その代表的な存在です。
日本国内にもさまざまなオークションハウスがアートオークションを開催しており、現代美術・古典・骨董などバラエティ豊かなラインナップでアートを扱っています。
アートオークションの仕組み
オークションハウスの多くは競売方式を採用しています。競売は一般的に広く知られている方式で、オークション会場にディーラーやコレクターなどの参加者を集めて競り合い、最高額を提示した人が落札する仕組みです。
かつては美術品の所有者が売却を希望すると、アートディーラーが仲介して美術品をオークションに出品する場合がほとんどでした。
しかし、近年はディーラーを通さずに、自らオークションに出品するコレクターが増加。オークションへの参加、そしてアート投資のハードルはこれまでに比べて大きく下がったと言えるでしょう。
アートオークションでの出品方法
アートオークションに出品する方法を、国内のアートオークション運営企業の中で唯一の上場企業として、多くの出品者・落札者から信頼を集めている「シンワオークション」を例に、実際の流れに沿ってご紹介します。
【1】オークションハウスに問い合わせ
まずは、オークションハウスに出品可能かを問い合わせます(オークションハウスにより対応は異なりますが、多くの場合は電話相談が可能です)。
作品の査定に関しては、Web査定フォームから画像を送付することで概算での査定が可能な場合もあります。査定の際には、個人情報を共有する必要は原則ありません。非公開で行われるため、安心して相談できることがメリットです。
【2】オークションハウスから提案
作品査定後、オークションハウスからリザーブプライス(=最低売却価格)とエスティメート(=落札予想価格)が提案されます。
オークションハウスの専門家は、最適な売却方法を含めて様々な相談が可能です。気になることや不明点があれば、遠慮なく質問しましょう。
シンワオークションの場合、出品時には
・カタログ掲載料(5,000円~30,000円程度)
・販売委託手数料(落札額の11%、税込)
・鑑定料、額などの修理費、著作権料(発生した場合に実費で支払う)
といった費用がそれぞれ発生します。
【3】オークションハウスに事前登録する
初めてオークションに参加する場合には、事前登録が必要です。
登録費用は無料。登録方法はWeb・下見会への参加・オークション会場・郵送など、さまざま。登録の際には身分証明書が必要です。
【4】オークションハウスと契約を締結
オークションハウスと出品者双方が合意した段階で契約を締結。契約を結んだ時点で、オークションへの出品が確定します。
【5】出品する作品の公開
オークションに出品する作品は、開催日に合わせてオークションカタログに掲載されます。
また、Webサイトに公開されるほか、事前に展覧会形式の下見会も開かれ、国内外の入札希望者が作品を閲覧します。
【6】オークション当日
いよいよオークション当日です。当日はオークショニアの仕切りのもと、出品された作品が一つずつ紹介されます。
入札方法は会場で札を挙げるほか、事前入札や電話入札などさまざま。オンライン配信を視聴しつつ入札するライブオークションもあります。
【7】代金の受け取り
落札された場合、入札者から出品者へ代金が振り込まれます。振込金額は先述した各種費用を差し引いた金額となりますので、受け取れる金額を確認しておきましょう。決済は落札日からおよそ1カ月以内に完了します。
※シンワオークションの場合は、オークション開催日から原則35日以内で決済が完了します。
海外オークションハウスへの出品を検討する場合
海外オークションハウスへの出品を検討する際には、オークションハウスが運営する日本国内の事務所に問い合わせることがベターです。
日本語でコミュニケーションができることはもちろん、出品までの流れなども詳しく教えてもらえます。
オークション会社を利用するメリット
手間が少なくスムーズに出品可能
出品費用は発生するものの、提案された落札予想価格に納得すれば、すべての作業を任せられスムーズに取引を進められるメリットがあります。
また、いずれオークションに出品することを前提に、鑑定の代行手続きを担うオークションハウスもあります。海外アーティストの作品は個人で鑑定を取ろうとすると非常に煩雑で、面倒です。オークションハウスに依頼することで、楽に出品を進められます。
相場以上の価格で売却される可能性あり
競売方式のオークションでは、落札価格が想定以上に高騰する可能性もあります。現実的には、オークションハウスが提案した落札予想価格内に収まる場合が多いものの、希少性の高い作品は予想価格の数倍で落札されることもあります。
オークション会社を利用するデメリット
現金化まで時間がかかる場合も
アートを売りたいと思ったタイミングから、現金化までに要する期間が3~4カ月ほどかかる場合もあります。
また、落札者から支払いが無かった場合には取引が成立しないことがあります。
期待通りに落札されるとは限らない
当然、落札希望者がいなければ不落札になります。その場合はカタログ費用など出品にかかる費用を支払った上で、作品が返却されます。
出品までの時間やお金が無駄になってしまう場合があることは、あらかじめ想定しておきましょう。また、予想価格以下で落札される場合もあります。
日本のオークションハウス
SBIアートオークション
2012年2月より、現在まで継続的にオークションを開催しているオークションハウスです。草間彌生や村上隆など国内の人気作家だけでなく、海外のアーティストによる作品も多く出品されています。
シンワオークション
1990年からオークションを開催しており、アートオークション運営企業では現在唯一の上場企業です。
安定資本を背景に、NFTアートやメタバース事業を展開する子会社を立ち上げるなど、時代に合わせて柔軟に事業を拡大しています
毎日オークション
株式会社毎日新聞社の関連会社内における美術事業部として、オークションを主催。創業は1973年と長い歴史があります。
特長はオークションの出品点数。年間30回以上開催されるオークションでは、1回あたり平均1,200点もの膨大な作品が取引されています。
海外のオークションハウス
サザビーズ(Sotheby’s)
1744年にイギリス・ロンドンで設立されたサザビーズは、現在世界40カ国に約80拠点を展開。2022年度には過去最高の総売上高が約1兆800億円(80億ドル)を記録するなど、老舗でありながら成長を続けているオークションハウスです。
2017年5月に実業家の前澤友作氏がバスキアの『Untitled』を約123億円で落札したり、2018年10月にはバンクシーの代表作『Girl With Balloon』が裁断されたりと、ニュースでその名を耳にしている方も多いのではないでしょうか。
クリスティーズ(Christie’s)
サザビーズと同じく、イギリス・ロンドンで1766年に創業されたクリスティーズ。2022年度の総売上高は約1兆1,121億円(84億ドル)を記録。サザビーズと共に、世界を代表するオークションハウスと言ってよいでしょう。
世界最高額がついたレオナルド・ダ・ヴィンチが西暦1500年頃に描いたとされる『サルバトール・ムンディ(Salvator Mundi)』は、2017年に美術品史上最大の落札額とされる約510億円(4億5,000万ドル)で落札されました。
まとめ
今回の記事では、アートオークションでの出品方法についてご紹介しました。実物資産投資として、アート投資は非常に有効な方法です。
日本国内でも注目を集めているアート投資ですが、国際的な市場規模の中ではまだ取引額は少ない現状です。伸びしろのある市場の中では、入札者としてはもちろん、出品者としてもアートオークションへの参加をご検討いただければと思います。