バンクシー(Banksy)|経歴や代表作を解説

    2023.01.26

    「イギリス出身の男性」ということ以外、まったく素性が明かされていない路上アーティスト・バンクシー。彼の政治・社会を批評したメッセージ性の強いグラフィティは世界中で人気となっており、日本も例外ではありません。
    2018年、世界最高峰のオークションハウス・サザビーズにおいて、落札直後にシュレッダーで作品が刻まれたことは記憶に新しいのではないでしょうか。この記事ではそんなバンクシーについて、作品の特徴や代表作を紹介します。

    バンクシーの経歴

    まずはバンクシーの経歴から紹介しましょう。

    落書きからアートへの昇華

    バンクシーの作品は主に街中の壁にスプレーやフェルトペンで描かれており、ジャンルでいうと「グラフィティアート」に分類されます。もともとは落書き程度の評価しかされなかったジャンルですが、1980年代にキース・へリングの作品が登場したことで、評価が高まりました。

    バンクシーの作品が評価され始めたのは2000年代に入ってからです。本来は公的機関によって消されることが多いグラフィティアートですが、その作品の完成度からオークションで高額売買をされるようになりました。

    社会へ一石を投じる作品の数々

    バンクシーの作品の大きな特徴が、作品のもつメッセージ性です。政治的、社会的な意味合いが込められています。大きなテーマとして「反戦」をよく描きます。

    例えば後述する「花束を投げる男」では、暴徒を描き火炎瓶の代わりに花束を持たせました。また「Napalm(ナパーム)」では、ナパーム弾から逃げ惑う少女を写した写真「ナパーム弾の少女」の両隣に、アメリカ資本主義の象徴である「ミッキーマウス」と「ドナルド・マクドナルド」を据え、強烈な風刺を描きました。

    「Napalm」には反資本主義も込められています。それと同時に低所得者層の権利も良く作品に反映されるのが特徴です。そのほか大量生産、大量消費社会など、現代人が持つ社会課題をさまざま反映しています。

    グラフィティアートの歴史

    引用元: Banksy

    先述したように、バンクシーの作品はグラフィティアート(直訳すると「落書き芸術」)と呼ばれるジャンルのものです。グラフィティアートは、ラップ・ダンス・グラフィティという括りで表されるように、黒人のヒップホップ文化の一種です。もともとは貧困層であったニューヨークの若者が地下鉄や街中にスプレー・フェルトペンで描いていました。

    公道や民家の壁などに描かれるため、違法な行為です。しかしそこにこそ、アーティストの意志があります。例えばグラフィティアートは反資本主義の意味合いがあり、街中に貼られる企業のポスターに対するアンチテーゼになっていることもあります。または、都市化に対する警鐘としての意味合いも持っています。違法だからこそ、社会に対するカウンターカルチャーとして成り立っているわけです。

    ただし違法ではあるので、アーティストは基本的に人がいない時間帯に制作をします。そのため「作品はできるものの、制作者の姿は見えない」というのも特徴です。まさにバンクシーの特徴である「実体が分からない」という部分はグラフィティアートの特徴を反映したものとなっています。

    バンクシーの展示会・イベント

    バンクシーは世界的に人気になるにつれて、世界各国で展覧会が開催されるようになりました。ここからは日本で開催される展覧会についてご紹介します。

    ただしここで重要なのはバンクシー自身が容認した展覧会はなく、すべて非公式に開催されている点です。展覧会によって利益が発生することは、バンクシーが避難してきた「資本主義」そのものであり、彼自身、こうした非公式の展覧会を強く非難しています。

    バンクシーの展覧会は「彼の作品を見て楽しむこと」だけでなく「お金として消費されてしまう表現者」という点のほうが重要ではないかと考えられます。

    バンクシー展 天才か反逆者か

    「バンクシー展 天才か反逆者か」は2020年から2022年まで横浜、大阪、名古屋、福岡、広島、東京、札幌で開催された展覧会です。2022年5月31日(火)の札幌での展示ですべて終了しました。

    作品を見た観覧客が「天才」か「反逆者」かを投票できるシステムがあり、最終的には「天才」が65.5%で着地しています。バンクシーはこうした取り組み自体も「何の意味があるんだ」と、きっと嘲笑っていることでしょう。

    バンクシーって誰?展

    「バンクシーって誰?展」は、2021年からスタートし、現在まだ全国を巡回中の展覧会です(2022年11月末日現在)。現在は高岡市美術館で開催されており、2022年12月17日(土)からは福岡アジア美術館で開かれ、日本での巡回展が終了します。
    「グラフィティアート」に重きを置いたものであり、実際に壁に描かれたような形で楽しめるインスタレーション方式をとっています。

    バンクシー&ストリートアーティスト展

    「バンクシー&ストリートアーティスト展 バンクシー グラフィティの申し子、ストリートアートの父」は2022年7月9日 (土)~9月5日(月)の会期で長崎県のハウステンボスで開催されました。専門学校モード学園 グラフィック学科との産学連携での取り組みです。ハウステンボスのパスポートチケット代を支払うと見られました。

    この展覧会もグラフィティアートの価値に重きを置いたもので、実際にパリのアーティスト・MADAMEが来日して、壁にグラフィティを描いています。

    また「バンクシー&ストリートアーティスト展 ~時代に抗う表現者の声よ響け」というタイトルで2022年3月12日(土)~6月12日(日)まで滋賀県の佐川美術館で展覧会が開催されました。このようにバンクシーの知名度が高まるに連れて、グラフィティアート自体にフォーカスした展覧会も出てきています。

    バンクシーの代表作品紹介

    では、実際にバンクシーの代表作と、込められたメッセージを紹介します。彼の作品のおもしろさは、作品自体の完成度だけでなく、そこに込められた政治的・社会的な思いです。

    Laugh now, but one day we’ll be in charge

    引用元: Banksy

    「Laugh now, but one day we’ll be in charge」はバンクシーがまだ無名だった2002年に描かれた作品です。彼の象徴の一つである猿が10匹おり、そのうち6匹が「Laugh Now, but one day We’ll be in Charge(今は笑え、でもいつか俺たちが仕切るときがくる)」というメッセージボードを下げています。

    これは社会的地位の低い若者を象徴しているといわれています。バンクシーは初期のころから、こうした社会的なヒエラルキー構造に対して情熱を持って、皮肉をとばしていました。

    花束を投げる男(Love is in the Air)

    引用元: Banksy

    「花束を投げる男」はバンクシーの作品のなかでも最も有名な作品の一つです。ベースボールキャップを被りバンダナを口元に巻いている暴徒が火炎瓶ではなく花束を投げている様子を描いています。

    これは武力衝突が起きていたパレスチナのガソリンスタンドの壁に描かれたものです。暴力に対するアンチテーゼとなっており、バンクシーはこうした反戦争・反暴力に関する作品も多く制作しています。

    赤い風船と少女(Balloon Girl)

    引用元: Banksy

    「赤い風船と少女」は2002年からバンクシーが描き続けているモチーフです。初期のころはロンドン周辺で数多く描かれました。2014年の「シリア難民危機3周年」の際にも描かれました。

    このキャンペーンは平和を願って、アムネスティ・インターナショナルや国境なき記者団などがはじめたものです。バンクシー自身の発言は「#WithSyria(シリアとともに)」のみでしたが、風船は希望の象徴といわれ、戦争の跡が残るシリアから少女を連れ去ってくれる存在とみなされています。

    また2018年にはこの作品がサザビーズのオークションで約1.5億円で落札されました。落札が告げられると同時に、額縁に仕込まれたシュレッダーが発動して、作品が切り刻まれるという事件が起こり、場は一時騒然となったのは記憶に新しいでしょう。

    この作品は「愛はゴミ箱のなかに」と命名されて後日、切り刻まれた状態で再度オークションにかけられました。その際に約28億8000万円という高値がついています。

    落ちるまで買い物をする(Shop Until You Drop)

    「落ちるまで買い物をする」はバンクシーが2011年に描いた作品です。ロンドンの高級ショッピング街のビルの高層部分に描かれました。日本でいうと、銀座のような街です。

    ショッピングカートとともに落下する女性は「消費社会」の風刺となっています。また高所得層へのカウンターともいえる作品であり、格差社会への皮肉にもなっているのがポイントです。

    シリア移民の息子(The Son of a Migrant from Syria)

    「シリア移民の息子」も有名な作品の一つです。初期のMacintoshと荷物を持ち去ろうとするスティーブ・ジョブズが描かれています。

    2015年、フランスの野営地「カレー・ジャングル」に描かれたものです。カレー・ジャングルはイギリスへの入国を試み失敗した移民が多く住んでいる場所です。アメリカなど移民の多い国では「移民が仕事を奪ってしまう」などと感ゲル移民に否定的な人がいます。しかしスティーブ・ジョブズはもともとシリア移民の息子です。移民を否定的に考えることは、可能性を潰すことになりかねない、という警鐘を鳴らしたと言われています。

    雨のネズミ(Rat Rain)

    引用元: Banksy

    「雨のネズミ」はバンクシー人気が沸騰する2019年に東京の日の出駅近くの防潮扉で見つかった作品です。バンクシー自身の作品であるか否かはいまだに議論が分かれています。

    小池百合子都知事がTwitterで紹介したことで、全国的に有名になりました。この作品はペンキで塗りつぶされることなく、都が撤去(保護)をしています。これにより「グラフィティアートは違法ではないのか」という議論が巻き起こりました。日本でのグラフィティのあり方を大きく変えた作品です。

    浴室で悪夢を引き起こすネズミ

    引用元: Banksy

    「浴室で悪夢を引き起こすネズミ」は2020年のロックダウン中にバンクシーの自宅の浴室と思われる場所で制作されたインスタレーションです。浴室には9匹のネズミがおり、部屋を荒らしています。

    バンクシーはこの作品の発表の際に「家で仕事をすると妻にひどく嫌がられる」とコメントしており、結婚をしていることがわかりました。バンクシーはネズミをよく描きますが、これは資本主義・浪費への揶揄の象徴とみなされています。

    廃棄自転車

    引用元: Banksy

    「廃棄自動車」は2020年の作品です。イギリス・ノッティンガムの路上に後輪が外された自転車を置き、その傍らに車輪でフラフープをする少女を描きました。

    大量に廃棄される自転車をモチーフに消費社会を揶揄した作品となっています。またその延長として環境問題にも触れていると考えられている作品です。

    SPIKE(NFTアート)

    引用元: Valuart

    「SPIKE」は2021年にNFTの競売にかけられたバンクシーの作品です。NFTとして販売するにあたり、パレスチナの人々を分断しているコンクリートのかけらをCGで処理して、隕石として見せています。オークションでは15万2370ドル(約2,200万円)で落札されました。

    バンクシーのグッズ

    バンクシーは現在に高い人気があるため、彼の作品のグッズが欲しい方もいるでしょう。しかし先述した通り、バンクシー自身が消費社会に警鐘を鳴らし続けているため、公式のグッズは展開されていません。そのため、展覧会のたびに販売されるグッズを買うしかない状況です。ネット上には非公認で作られた、たくさんのコピー品が並んでいます。

    彼を特集した雑誌でいうと、Casa BRUTUS(マガジンハウス社)から「BANKSY バンクシーとは誰か?【完全版】」という本が出ています。濃い内容となっており、画集としても楽しめる一冊かもしれません。

    また同郷であるイギリスのロックバンド「Blur」の「THINK TANK」というアルバムのジャケットをデザインしています。バンクシーがCD・レコ―ドジャケットをデザインするのは珍しいことです。

    まとめ

    バンクシーが描くグラフィックアートはネズミやサル、少女などのモチーフが登場することで、よく「かわいい」という声もあります。非公認の展覧会が次々に開催され、非公式のグッズが大量に売れます。資本主義・社会的格差などを風刺してきた彼自身が既に消費される存在となっているのは、これ以上ないくらいに皮肉なことです。

    この現状までもバンクシーの作品の一部のように思えてくるのが彼の魅力なのでしょう。彼の人気ぶりからいって、今後も数年にわたって日本で展覧会が開催されるでしょう。もし実際に見た際には、ぜひ作品のキャッチ―さだけではなく、彼の発する「メッセージ」に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
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