井田幸昌(Yukimasa Ida)|経歴や代表作品からその魅力
2022年10月末、ハロウィンで賑わう渋谷スクランブル交差点を、「絵なんてわかってたまるか」と書かれた大きなビジュアルがジャックしました。画家・現代美術家 井田幸昌が2023年に開催予定の展覧会の広告です。この記事では、世界のコレクターから注目を集める井田幸昌のこれまでの経歴や代表的な作品の数々についてご紹介します。
井田幸昌の経歴
井田幸昌は1990年2月18日鳥取県生まれ。2019年に東京藝術大学大学院を修了したばかりの30代の若手作家でありながら、すでに国内外で数々の個展やグループ展に参加してきました。ここではそのキャリアを振り返ります。
彫刻家である父の影響を受け芸術家の道へ
彫刻家の井田勝己を父にもつ井田幸昌は、幼い頃から芸術が身近な存在でした。国内外を飛び回って制作を続ける父親から絵を描くことをすすめられ、その奥深さから作家を目指すようになった、とインタビューなどで語っています。
また、父親の親友であったオランダの彫刻家 故・ロバート・シンドルフからも大きな影響を受けており、メンターとして慕っていました。
高校卒業後は石材業界へ就職するものの、美術家を諦めきれず、東京藝術大学を4度受験。2016年に油画専攻を卒業後、同大学院へ進学し、2019年に修了しました。在学中から多くの個展、グループ展を開催し、2016年に「VOCA展 2016」へ参加、同年行われた現代芸術振興財団主催の「CAF賞」で名和晃平賞を受賞します。
2017年にはレオナルド・ディカプリオファンデーションオークションに最年少で招待参加を果たしました。
ロンドンでの個展を機に海外進出
2017年、井田幸昌は大学を休学してニューヨークとロンドンに数カ月滞在。このとき、海外のアートマーケットの大きさや、アーティスト達が自分で会社経営をしている姿などを目の当たりにし、大きなカルチャーショックを受けました。そして帰国後、自身のスタジオであり会社である株式会社IDA Studioを設立します。
同年、イギリス・ロンドンのラバッサ・ウルフ本展で国外初の個展「Bespoke」を開催。その後、2018年にパリ、2019年に北京、2021年にはシカゴで、と、世界各地での個展開催を通じ、世界中のコレクターと出会うきっかけとなりました。
名実ともに世界を代表する芸術家へ
2018年、Forbes JAPANが主催するアワード「30 UNDER 30 JAPAN」の1人に選出され、大きな話題となったほか、 2021年には、フランスのハイメゾン・Diorとのコラボレーション「Collaboration by Dior Lady Art」を発表するなど、多角的な活動を続けています。
また、実業家・前澤友作氏が、日本の民間人として初めてISS(国際宇宙ステーション)に滞在する宇宙旅行を行った際、井田幸昌の絵画作品「End of today – L’Atelier du peintre -」をISSに寄贈し、世界的な注目を集めました。
井田幸昌の魅力に迫る
井田幸昌は東京藝術大学の在学中から、その高い画力と絶妙な色彩感覚の絵画作品を発表してきました。
さらに近年は、ブロンズなどの彫刻作品や、版画制作に取り組むなど、表現者としての幅をさらに広げつつあります。
ここでは、その多彩な作品の魅力を紹介します。
画力の高さ
井田幸昌は大学在学中から卓越した絵画表現の技術を持ち、卒業後も作家活動を続けて行くため、積極的に学外で作品を発表していました。
なんと2022年には、ピカソ生誕の地であるスペインの美術館・Museo Casa Natal Picassoから依頼され、自身初の美術館での個展「Yukimasa Ida visits Pablo Picasso」を、4月26日(火)~10月2日(日)まで開催。
ピカソをトリビュートした描き下ろしの作品を40点以上展示した展覧会は、現地で好意的に評価されたそうです。
独自の色彩センス・独特の色使いやタッチが特徴
抽象的でありながら、それが誰を描いているのかが伝わってくる、絶妙なバランス感覚によって描かれている肖像画の数々。まさにひと目で井田幸昌の作品だと分かる、代表的な作品群と言えるでしょう。
そして、大胆な筆致と色使いも、井田幸昌の作品が国内外のコレクターを惹きつける唯一無二の魅力です。
平面の絵画作品においても、絵具のマチエールや質感が美しく、細部まで丁寧に描き込まれていた密度の高い作品は、独特の存在感を放っています。
井田幸昌の代表的な作品
井田幸昌がこれまでの作品で一貫して掲げているテーマが「一期一会」です。
元々は茶道に由来する四字熟語ですが、二度とない「いま」を表現し、過去と現在を投影させた作品を通して、他者の存在とは何か、を見る者に常に問いかけています。
ここでは、井田幸昌が手がける代表的なシリーズをご紹介します。
Portraitシリーズ
大胆な筆致と色使いで、抽象的でありながらも、それが誰を描いているのかが伝わってくる、絶妙な肖像画の数々。それが井田幸昌の代表作でもある「Portrait」シリーズです。
アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキア、パブロ・ピカソといった、各時代のアイコンとなった著名な人物のほか、作家自身の身近な人々もモチーフに描いています。
これまでの人生で出会ってきた人への想いから、井田幸昌は比較的多く人物画を描いており、「今後も描き続けるだろう」とインタビューでも語っています。
End of todayシリーズ
まさに一期一会、きょうという日における自身の心象風景や、身近な無名の人々の姿などを出会ったその日に描く、というコンセプトのシリーズが「The end of today」です。
2013年頃からスタートし、F4号(333×242mm)という小ぶりなサイズで、まるで井田幸昌の絵日記のように描かれ続けている作品群は、この先歴史に残っていくかもしれない現代作家が描く、唯一無二・現在進行形の活動の記録であり、セカンダリーマーケットでもかなりの高値で取引されています。
箱庭 -創造的な寓意-
2020年に発表された作品「箱庭 -創造的な寓意-」は、前澤友作氏からの依頼で制作されたコミッションワークです。
横幅11.7m、縦3.5mと、これまでの井田幸昌作品の中で最も大きな平面作品で、20代の集大成として、約3年もの時間を費やして制作されました。
前澤氏に「好きに描いていい」と言われ、以前からやってみたかったという、クールベの「画家のアトリエ」から着想を得て制作しました。死の世界と生きている人の世界を表現しており、自らも絵筆を持った姿で描き込まれています。
井田幸昌の作品はどこで見られる?
感度の高い世界中のコレクターが、井田幸昌の作品に魅了されています。そんな彼の作品を、ぜひ目の前で鑑賞してみたいですよね。
ここからは、直近で予定されていたギャラリーや美術館での展示情報をご紹介します。
Villepin Gallery「THE LOSS OF HUMAN FACE?」(香港)
香港在住の起業家でアートコレクターでもあるアーサー・ド・ビルパンが、元フランス首相の父ドミニク・ド・ビルパンと2020年に立ち上げたのが、香港のギャラリー、Villepin Galleryです。
ここで2022年6月2日(木)~10月30日まで開催されていた「THE LOSS OF HUMAN FACE?」では、フランシス・ベーコンやエイドリアン・ゲニーら、世界的に有名な芸術家5名の作品が並ぶ中で、唯一の日本人作家として展示されていました。
MAEIAN IBRAHIM「THE LOSS OF HUMAN FACE?」
Mariane Ibrahim Gallery「Now is Gone」(パリ)
フランス・パリのマリアン・イブラヒム・ギャラリーでは、2022年10月15日(土)~11月26日(土)の会期で、個展を開催しました。
マリアン・イブラヒム・ギャラリーは、自身のスタジオを立ち上げ個人で活動を続けてきた井田幸昌にとって、初めてパートナーシップ契約を結んだギャラリー。この契約によって、より海外の文化を知るきっかけになっている、と井田幸昌はインタビューで語っています。今後、海外に拠点を構える予定の彼にとって非常に良いパートナーとなることでしょう。
MAEIAN IBRAHIM「YUKIMASA IDA」
都内でグループ展を予定
2022年10月16日(日)から渋谷のスクランブル交差点に掲出された井田幸昌のメッセージ広告「絵なんてわかってたまるか」は、SNSを中心に瞬く間に話題となりました。
これは、自身初となる国内美術館での展覧会「Panta Rhei|パンタ・レイ - 世界が存在する限り -」開催に先立つ企画です。
展覧会は、井田幸昌の故郷である鳥取県の米子市美術館で2023年7月22日(土)~8月27日(日)まで、京都市京セラ美術館で9月30日(土)~12月3日(日)開催予定です。
Diorとのコラボレーション「Collaboration by Dior Lady Art」
フランスのハイメゾン・Diorのアイコニックなバッグ・レディディオールを、世界各国の現代アーティストたちが自由に再解釈するプロジェクト「Collaboration by Dior Lady Art」。
2021年、その第6弾アーティストの一人に、井田幸昌が選ばれました。制作された、まさにアートピースなバッグは、2022年1月6日(木)よりハウス オブ ディオール ギンザでお披露目され、アート好きとファッション好きの間で大きな注目を集めました。
DIOR「DIOR LADY ART #6:アーティストに会う」
まとめ
井田幸昌が卒業後も美術作家として活躍することを念頭に、大学在学中から精力的に活動し、20代で国内外に多くのファンを持つ作家に成長した背景には、かつて美術作家の道を諦めて就職した経験があったからこそかもしません。
数年のうちにアメリカかイギリスに制作拠点を置く予定とのことで、この先ますます世界中のアートコレクターが注目する作家となるでしょう。