世界のオークションハウスの基礎知識|仕組みや参加方法を解説
「アート作品のオークション」と聞くと、日本国内ではまだまだ馴染みが薄く、ごく限られた一部の富裕層だけが参加できる世界というイメージをお持ちの方が多いかもしれません。
しかし、実は世界でも名だたるオークションハウスに、日本国内からも参加でき、数万円から入札が可能です。その仕組みや、参加方法、世界でも著名なオークションハウスについてご紹介します。
(TOP画像引用:CNN)
世界のアート市場の規模
世界各国で著名なアートフェアを開催しているArt BaselとUBSは、世界のアートマーケットに関するレポート『The Art Basel and UBS Global Art Market Report』を毎年発行しています。
2023年3月に公開されたレポートによると、世界の美術品の売上高は、前年比 3% 増の推定 678 億ドル(約9兆円)に達し、2019年に世界が直面したパンデミック以前のレベルを上回るほどの回復を見せました。
売上高の45%を占めている国がアメリカで、その売上規模は約4兆円以上と圧倒的です。そのほか、イギリス(18%)、中国(17%)、フランス(7%)が続きます。
© Arts Economics (2023)
引用元:
Art Market 2023
アート作品に注目が集まる理由
世界情勢や金融市場への不安・懸念が拭えない昨今、なぜこれほどまでに世界各国のアート市場が活況を帯び、非常に多くの人々の興味関心がアート作品の売買へと注がれているのでしょうか。
大きな理由としては、アート作品をコレクションすることが世界各国の富裕層の中で一種のステータスになっている点です。
特にここ数年における現代アートやNFTアート人気の過熱ぶりは、目を見張るものがありました。その背景には、一部のアート作品の価格が急騰する様子から、投資対象としてアート作品を入手したいという投資家の増加も影響しています。
オークションでアート作品を購入するには?
アート作品を購入する方法というと、プライマリー(一時流通)またはセカンダリー(二次流通)のギャラリーを訪れたり、アーティストへ直接コミッションワーク(オーダー制作)を依頼したりと、様々なパターンがあります。
そしてもう一つ、オークションハウスで開催されるアートオークションで購入する方法があります。今回は海外のオークションで作品を購入する手順について、より詳しく解説していきましょう。
開催スケジュールをチェック
海外のオークションハウスで開催されるオークションの中には、日本からオンラインで参加可能なオークションが多数あります。
まずは、どのオークションハウスで、どんなジャンルのアートオークションがいつ開催されるのか、スケジュールを確認しましょう。
各オークションハウスの公式ホームページには、開催スケジュールと扱う作品のジャンルが紹介されています。
こんな用語をチェックしておこう
オークションに参加する前に、最低限知っておきたい専門用語を3つご紹介します。
◎ロットナンバー(Lot.No)
出品される作品の単位です。複数の作品が1ロットとして出品されている場合も多くあります。
◎リザーブプライス(Reserve Price)
最低売却(落札、入札)価格です。例えば1万円でリザーブプライスが設定されている場合、落札価格は1万円以上となります。
◎エスティメート(Estimate)
オークションハウスが査定した落札予想価格です。入札する際の目安になります。
下見会
アートオークションでは、事前に全ての出品作品が下見会で公開され、入札希望者は実物の作品を確認することが可能です。下見会はオークションが開催される直前の数日間、各国の会場で行われます(招待制の場合もあり)。
なかには動画や3Dで作品を事前確認できるオークションもあり、日本からオンライン参加を希望されている方も場合によって事前確認が可能です。より詳細な状態を知りたい場合は、メ―ルなどで問い合わせることもできます。
参加登録~入札
出品作品の下見のみであれば、原則事前登録は不要です。しかし、入札に参加したい場合は決められた期限までにアカウントや決済で使用するクレジットカードなどの各種情報を登録する必要があります(オークション開催地や落札金額などによっては銀行送金となる場合もあります)。
オークションの開催時にリアルタイムで入札する「ライブオークション」への参加方法は主に4つ。電話、オンライン、FAX、書面での事前入札です。
落札後の流れ
入札は先着順での受付となり、各ロットにおける最高額の入札をもって落札となります(リザーブプライスが設定されている場合は、その金額以上での落札が条件です)。
ただし、「落札金額=支払総額」ではありません。落札時にはオークションハウスへ支払う所定の手数料が落札価格に応じて加算されます。例えば、サザビーズやクリスティーズの場合は1,000万円までの落札時に19.75%の手数料がかかるので、落札を検討する際に想定しておくことが必要です。
また、作品の梱包や輸入する場合は輸送費や所定の関税なども加算されます。指定期日までに代金を支払えない場合はもちろん落札が取り消されますので、予算に余裕を持って入札に参加しましょう。
世界的に有名なオークションハウスとは
アートオークションを開催しているオークションハウスは世界各国に存在しています。
特に老舗かつ著名なオークションハウスは、『世界3大オークションハウス』と呼ばれている『サザビーズ(Sotheby’s)』や『クリスティーズ(Christie’s)』『フィリップス(PHILLIPS)』です。
サザビーズ(Sotheby’s)
1744年にアメリカ・ニューヨークで創業。世界最古にしてオークションハウス業界のパイオニアとも言えるオークションハウスです。世界40カ国に80拠点を展開し、日本法人である株式会社サザビーズジャパンは1979年に創業しています。
2022年末に発表した総売上高(見込み)は、創業278年で過去最高となる80億ドル(約1兆800億円)を達成したと発表、世界中を驚かせました。
2018年10月には、ロンドンでのオークション中に作品がシュレッドされて世界中でニュースになった、バンクシーの作品『Love is in the Bin』が1,858万ポンド(約28億8,000万円)で落札。
その他、2023年4月にニューヨークで行われたオークションで、マイケル・ジョーダンが1998年のNBAファイナルで履いたエア・ジョーダンが、スニーカーのオークション史上最高額である220万ドル(約3億円)で落札されたことも大きなニュースになりました。
クリスティーズ(Christie’s)
1766年にイギリス・ロンドンで創業。世界46カ国に拠点を構え、数多くの過去最高落札価格の記録を更新し続けているオークションハウスです。
2022年の総売上高は前年比17%増の84億ドル(約1兆1,121億円)を記録し、「美術品市場史上最高」と発表。同年に開催されたアートオークションの落札価格トップ3は、すべてクリスティーズで取引された作品でした。
なお、現在世界最高額で落札された作品とされる、レオナルド・ダ・ヴィンチ『サルバトール・ムンディ(Salvator Mundi)』も、2017年のクリスティーズオークションにて4億5,031万ドル(約508億円)で落札。2023年4月現在もその記録は更新されていません。
フィリップス(PHILLIPS)
1796年にイギリス・ロンドンで創業。他の2社が幅広いジャンルの作品を扱う一方、フィリップスは2014年にCEOに就任したエドワード・ドルマンが、コンテンポラリーアート(20世紀以降のアート、現代美術)に注力する戦略へと方針を転換。
現在は、コンテンポラリーアート・デザイン・時計・ジュエリー・写真・エディションプリントの6分野に特化しています。
日本法人の設立は2016年。自身もアートコレクターだった服部今日子さんが代表に就任し、国内法人を立ち上げました。
なお、2022年の売上高は前年比約20%増の13億ドル(約1,724億円)となり、同社史上最高額を達成。2022年5月には、ニューヨークで開催されたイブニングセールで実業家の前澤友作氏が出品したバスキアの大作『Untitled(1982)』が8,500万ドル(約109億円)で落札され、同社史上最高額を記録したことも記憶に新しいでしょう。
アート作品を購入するメリット・デメリット
最後に、高額なアート作品を購入し所有することについてのメリット・デメリットを簡単にご紹介します。
メリットとしてよく挙げられるのは以下の2点です。
・ただ作品を見るだけでは実感できなかった、アート作品をより深く身近な存在として鑑賞できる
・所有する作品や作家のアートマーケットでの評価が向上すれば、資産価値の向上と節税効果が期待できる
一方でデメリットと考えられるのは以下の2点でしょう。
・今後のマーケットの評価によっては、価値が横ばいまたは下落する可能性も否定できない
・もし作品を手放したい場合に、各種手続きや出品など然るべき手段を経る必要があるためすぐに換金できない
まとめ
国内外で開催されているアートオークションは毎月・毎週のように開催され、オンラインで気軽に閲覧や入札が可能です。オークションの模様は、その多くが世界中に向けて無料でライブ配信されています。興味のある方は、ぜひ公式ページなどから視聴してみてください。