アート投資の魅力とは? メリット・デメリットを中心に完全解説

    2023.04.19

    実業家の前澤友作氏が2016年に約5730万ドル(約62億円)で購入したジャンミシェル・バスキアの絵画が、2022年5月に約8500万ドル(約109億円)で高額落札されたことが話題となりました。前澤氏は、このバスキアの絵画を6年間所有しただけで、約2770万ドル(約47億円)を生み出したことになります。

    これは規模が大きい一例ですが、アート投資は徐々に身近な投資として世の中に浸透しています。絵画をはじめとしたアート作品は、昔から投資資産という一面を持っており、現在も日本だけでなく世界の富裕層の間で、アート投資が注目されているのです。

    この記事では、アートに興味がある人に、アートの投資資産としての側面、アート投資の始め方や人気作品の入手方法まで解説します。美術館で見て楽しむだけではない、アートの新たな魅力に迫ってみましょう。

    アート投資の特徴|なぜアートが投資の対象になるのか

    資産性、希少性の高さ

    代表的な実物資産には不動産や貴金属がありますが、アート作品も実物資産にあたり、美術品そのものに価値を持ちます。大量生産が難しいため希少性が高いことがアート作品の価値の裏付けとなり、資産価値が上がっていくのです。

    アートの価値は景気に左右されにくく、インフレのリスク対策にもなる

    前述の通り、アート作品は実物資産で希少性が高いことから、株価の変動に影響されにくいと言えます。また、アート作品はインフレに強い傾向があります。歴史的に見ても、大戦などで大きなインフレとなったときに、美術品が富裕層の資産を担保するための投資先となっていました。

    他の金融投資に比べて高いリターンが期待できる

    アート作品によっては、価格が数十倍~数百倍に上昇することがあります。将来的にそこまで上がる作品を入手できるのは稀ですが、現代アートというジャンルで見ると一般的に売買の手数料を含めても約10年で2~3倍のリターンを得られることが多いようです。

    例えば、日本を代表する現代アーティストの一人である奈良美智(なら よしとも)氏の作品は、10年前(2010年代)から価格が20倍以上に上がっています。「Missing in Action」という作品は、2021年6月7日、8日に香港・北京で開催された「20 世紀・コンテンポラリーアート&デザインセール」で、約1,600万ドル(約15億円)で落札されました。
    上記グラフは、Artprice100(c)と株価指数S&P500の推移を表しています。Artprice100(c)とは、過去5年間のオークションでの上位100人のアーティストに投資されるアート市場インデックスです。Artprice100(c)はS&P500を上回り36%上昇しています。

    ※参考
    Artprice launches its “blue-chip” Art Market index, Artprice100®, designed for financiers and investors

    社会的貢献にもなる

    世界のアート市場と比べて、日本はまだまだ成長過程で伸びしろがある状態です。世界で評価されている日本の現代アーティストである村上隆氏や、奈良美智氏の作品は今や入手困難ですが、まだ世界のアート市場に出ていないような、日本の現代アーティストの作品は比較的入手しやすい状態です。

    日本のアート市場が盛り上がることが、作家の懐にも直結して支援になります。作家が潤うことで、さらに新しいアートが生まれるという好循環となり社会貢献につながるのです。

    アート投資のメリット、デメリット

    メリット

    ▼趣味と資産運用のどちらも兼ねることができる
    自宅にアートを飾って日々眺めると、美術展での短時間の鑑賞とは違った発見があったり、作品を深く味わったりすることができます。同じ作家や、ジャンルを絞ってコレクションすることもアート投資の楽しみ方の一つでしょう。

    また、近頃は「アート思考」といってアートから受けるインスピレーションをビジネスに生かそうとする動きが盛んです。所有しているアートを十分に味わった上で、購入した時よりも高値が付けば、さらなる充足感につながるでしょう。

    ▼収益の変動によるリスクが少ない
    アート投資の特徴の1つとしても述べたように、アートの価値は株や債券の価格とは異なる値動きをし、また株や債権ほど景気動向に左右されません。そのため、価値の急落リスクが相対的に低いのが特徴です。

    ▼節税対策になる
    100万円以内のアート作品(古美術品や古文書を除く)の購入は、ロビーの装飾など事業で使用することを目的とし、条件をクリアしていれば、減価償却資産として扱われます(ただし、購入金額により扱いが異なります)。購入費用を経費として認められるので節税対策になるのです。

    デメリット

    ▼保管が難しく経年劣化がある
    アート作品は、保管に場所を取るのが難点です。また、アート作品に経年劣化はつきもので、飾る時も保管時も高温多湿な環境や光を避け、劣化を進行させないように気をつける必要があります。

    大きな劣化は、その作品の価値を下げてしまうからです。美術品に特化した保管サービスもありますが、定期的に利用料がかかります。

    アート作品の経年劣化を防ぎ、資産価値を守るためには「美術倉庫」がおすすめ。美術品を最適な環境で保管し、取り扱いは美術品管理のプロフェッショナルが対応します。自分でアート作品の保管ができない方はぜひ利用しましょう。

    ▼贋作(がんさく)も流通するためホンモノか見抜くのが難しい
    芸術品の贋作(がんさく)の流通問題は、しばしばニュースで話題となります。百貨店や有名なオークションハウスですら真贋を見抜けないほどの精巧な作りともなれば、個人でホンモノかを見抜くのは至難の業でしょう。偽物と判明すれば、途端に価値がなくなります。確かな目を持ち、作家本人とやり取りをしているギャラリーから購入するのが安心です。

    ▼アートに興味がない人には不向き
    アート投資を成功させるには、これから人気の出そうな作家や作品を見極めて購入し、アート情報に敏感になり売るタイミングをつかむことがカギとなります。ある程度のアートの知識は必要ですし、アートが好きで投資以前に自分で好きな作品を所有したいと思える人が向いているでしょう。短期的に利益がでる投資ではないため、所有することを楽しめることが大事です。

    ▼短期的な売買には向かない
    オークションを例に挙げると、売買でおおよそ20%の手数料がかかります。これは、株などの金融投資と比べるとかなり高い手数料です。また、アートの売却のタイミングは、数カ月~数年かかります。作品の評価や、作家の人気の形成には時間を要するので、アート投資はじっくりと長期的に捉える必要があります。

    アート投資の始め方|まずはアートの売買が行われる場所を知ろう

    アート投資の流れを簡単に説明すると、アートを購入し、その作品が高値で売れそうなタイミングで売却し利益を得ます。

    ここでは、アートの売買における流通の場を紹介します。アート鑑賞はもっぱら美術館という方には、接点がなかった場所かもしれませんが、ここから紹介する場所でもアート鑑賞ができる上に、気に入ったアートを購入するチャンスもあります。

    プライマリー(一次流通)アートの購入なら

    作家の手から世に出る最初の市場をプライマリーと言います。プライマリーを扱うのは、画廊やギャラリー、百貨店(外商)、アートフェアなどです。ギャラリーに所属していない作家本人から直接作品を購入する人も一部いますが、それもプライマリーにあたります。

    画商やギャラリーでは、現存の人気作家の新作や若手作家の作品に触れることができます。2021年に実施された「日本のアート産業に関する市場調査」では、国内の画廊・ギャラリーからの購入額は、前年から28%増の857億円という結果でした。画廊・ギャラリーが購入の場として選ばれていることがわかります。

    一方、アートフェアは規模が大きいので、何百ものギャラリーを一度に見て回れるのが魅力です。2022年3月に東京国際フォーラムで開催した「アートフェア東京2022」では、国内外150ほどのギャラリーが出店しました。ブースによっては、初日の午前中に作品の半数が売約済みや、早いとオープン前に完売するなど、好調な売り上げでした。

    比較的、手が出しやすい価格帯の作品が多いのもプライマリーの特徴です。アートフェア東京2022を例にあげると、価格帯は数十万円からです。

    セカンダリーアートはオークション

    作品が売りに出されるのが2回目以上の市場がセカンダリーです。転売という意味合いを持ちますが、アート作品に中古という概念はなく、プライマリーもセカンダリーも同じ1つのアートとして扱われます。

    サザビーズ、クリスティーズ、フィリップの海外の3大オークションハウスが有名で、セカンダリーアートの多くは、これらを始めとしたさまざまなオークション会社で扱われます。日本では、SBIアートオークション、Shinwa Auction(シンワオークション)、毎日オークションが有名です。

    オークションは、誰でも参加できますが、前澤氏のバスキアの絵画のように、100億円を超える高値でやり取りされる事例もあります。人気作品の購入には、何千万、何億円といった膨大な資金が必要となるでしょう。

    人気作品の入手方法

    人気作品を入手することがアート投資成功への近道です。しかし、最近は、アートフェアやギャラリーで人気作家が開く個展の初日前に作品が完売するなど、人気作家の作品を手に入れるのは困難になってきています。

    画商やギャラリーでは

    画商やギャラリーで人気作品を購入するのは、なかなかハードルが高いことです。なぜなら、コネクションが必要なケースも多く、また、その人が所有するコレクションから、販売して問題ない人物であるかの信頼性をギャラリーが判断する場合があるからです。

    コネも自身のコレクションも手薄な場合は、好みの作品が置いてあるギャラリーに通い、顔を覚えてもらうことからはじめましょう。意中の展覧会がある場合は、訪れる前にギャラリーに電話をして、展示の作品に興味があり購入を検討していることと、いつ来店したらよいかを聞きます。親切なギャラリーであれば、ギャラリスト(画商やギャラリーの経営者)が在中する日時を教えてくれます。

    このようなやり取りや購入実績を地道に重ねることでギャラリストと信頼関係が生まれます。自分の好みや集めたい作品を伝えておくと、事前に個展やアートフェアの情報が得られることがあります。作品を売却したいときにもアドバイスをくれるでしょう。

    世界的に有名な作家の作品を購入したい場合はオークションで

    有名作家や業界内で注目の作品を中心に取引するのが、セカンダリーマーケットであるオークションです。すでに価値が保証されている作品を多く扱っていることが特徴です。オークションでは、資金力のある富裕層が競り合うことで金額が上昇していくので、落札価格が高騰することがあります。

    資金に余裕がある場合に、世界的に有名な作品を手堅く競り落とせるのがオークションの魅力です。

    人気作品を入手するためにはリサーチ力が必要

    日頃からニュースやアート情報誌、コレクターが発信するアート情報には敏感になり、話題のアーティストや作品はチェックするようにしましょう。

    アーティストが話題になると、作品の価値が上がることがあるからです。購入の目安になるだけでなく、高額で売却するタイミングをつかむことにも役立ちます。また、購入場所によっては相場とかけ離れた金額のこともあるため、情報を収集し相場の感覚値をつかむことも大切でしょう。

    実際にセカンダリーで購入するときは、作品の来歴(所有履歴)まで調べる必要があります。それは「世界的に有名なコレクターが所有していた」など、来歴によって価値が変わる事があるからです。

    アート投資の魅力、まとめ

    日本国内で見るとアート投資の規模はまだまだ小さいですが、世界規模で考えるとアート市場はコロナ禍であっても成長を続けており、世界の富裕層に注目されています。

    アートが好きな方は、日本のアートフェアやギャラリーに足を運んで購入を検討してはいかがでしょうか。現在の日本国内では、アートの価格帯やニーズといった観点で世界と比べてアートが購入しやすい状況です。自分が好きな若手アーティストの作品を買うことが、そのアーティストを応援することにつながります。

    そして、作品をコレクションしたら、時間をかけて十分味わった上でアーティストの評価が上がったタイミングで世界のオークションに売りに出してみましょう。海外でそのアーティストが話題になることで、その価値はさらに上がります。

    アート投資は、腕時計投資などと比べてさらに希少性が高いことと、オークションに出品する機会がたくさんあることが魅力です。これからの日本のアート市場の拡大に期待し、アート市場を盛り上げていってはいかがでしょうか。
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